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受任の際の注意点

(1)見通しの説明
受任に際しては、任意整理の手続きと当該事件の処理方針について依頼者に十分に説明して納得を得、債権者の中に手続きに非協力的な者がある場合には手続きが長引く可能性があること、全債権者との間で示談が成立するまで支払総額が確定しない場合があることなどについて理解を得ておく必要がある。

(2)費用の説明
任意整理に必要な着手金、実費、示談金預かりについてよく説明し、手続き継続中に依頼者から照会があれば、示談成立状況や費用・示談金の支払状況等についていつでも開示することを伝えておくべきである。訴訟が提起されたり、過払金返還訴訟を提起する場合には、預かり費用が多額になる場合があることも説明しておく必要がある。

(3)債務者に対する生活上の注意
債務者に対しては、まず、債権者に対する支払を直ちに停止するよう指導する。銀行口座からの引き落としで支払っている場合には、受任通知によって当然には引き落としが停止されるわけではないから、引き落とし口座の残額をゼロにしておくか、銀行で口座引き落としを停止する手続きをとるように指導する。そして、今後一切新たな借入れをしないこと、計画的な生活を営むべきことなどについて、十分に注意をし、分割示談金を毎月預かる場合には、示談金の入金が継続しない限り任意整理手続きを継続することはできないことについて、十分な説明をして了解を得る必要がある。

(4)説明書・契約書の作成
債務者は受任時の説明をすべて理解することはなかなか困難であるから、以上のような説明の内容について、理解しやすい文書にして渡しておくべきである。そして費用や報酬、預かり金の処理、示談金の支払方法等については契約書の形式で作成しておくべきである。契約書には、万一手続きの途中で費用や業者への支払金が滞った場合には、どのような基準で、どのような形式により辞任することができるのか、という点を明確に定めておく方がよい。また、連絡がつかなくなった場合などについても、どのような基準で、どのような形式で辞任することができるのかを定めておく方がよい。

連帯保証、名義借りの扱いについて

連帯保証人が付いている債務については、連帯保証人がその債務についてだけ連帯保証をしており、他に借入れがないような場合には、債務者の任意整理手続きの中で一挙に解決してしまうことが可能であるから、債務者に対して連帯保証人も同行して一緒に委任するように勧める。しかし、連帯保証人が協力を拒否したり、債務者との間で紛争を抱えているような場合には、受任はむしろ避けた方がよい。連帯保証人が自らも多重債務である場合には、連帯保証人自身が自ら任意整理等の解決方法に踏み出す意思を持たなければ受任しない方がよいであろう。

債務者が第三者の名前で貸金業者から借入れをしている場合(いわゆる名義借りの場合)には、現実には債務者がその支払をしていることが多い。債務者がそのような高金利の支払を継続していくことを放置するならば、再びそこから傷口が広がることになるので、その第三者(名義貸人)を同行して一緒に依頼するように勧めるべきである。この場合、名義貸人は、自らが支払義務者であることの自覚が乏しい場合が多いので、第一次的には名義貸人が支払義務を負うことについて、十分に説明する必要がある。

分割払いの任意整理の場合に、受任後、全債権者との間で示談が成立するまでの間、月々の支払予定額(示談成立の見込額)を弁護士が預かるようにすることも考えられる(全社との間で示談が成立した後も返済を代行するかどうかとは別の問題)。このようなプール金を預かることによって、受任直後から債務者に計画的な生活をなすよう促すことになるし、一部の債権者との間で示談が長引いた場合にも返済源資が貯まり、後に示談する時点で一部を一括で支払うなどの交渉も可能になるというメリットがある。このようなプール金を預かる場合には、その預かり金の性質やその後の処理について紛争が生じないように、明確な契約書を作成しておくのが妥当である。

債務者の収支および財産状況聴き取りについて

債務者の収支および財産状況については、客観的な資料で確認する必要がある。多重債務者の中には、破産や個人再生を避けたい一心から収支・財産状況を粉飾して申告する者も多いからである。給与明細や決算書類などを確認することは不可欠である。親族などの援助により一括払いをするケースでは、親族による資金準備が確実であるかの確認も重要である。債務者が安定した企業や官公署に勤務しているか否か、差押えが容易な資産がないかという点は、債権者との間で強い立場で交渉できるか否かを判断するのに重要な事実である。

収支および財産状況の確認に当たっては、同居家族とともに聴取を行うとより客観的になるので、できれば同居家族に同席してもらうようにする。以上のような聴き取りの結果として、まず、利息制限法に引き直した場合、債務額がどの程度となるかの予想を立てる。これは、多分に経験に頼らざるを得ない作業である。そして、予想した債務額をおおむね三年で分割した場合の月々の支払額を算出する。一部に過払金返還請求が可能な業者がある場合には、その返還見通しを考慮して、債務額を算出することになる。

過払金を任意に返還しない業者については、訴訟を提起することになり、返還まで長期間を要することになるので、いったん過払金額を除外した金額での分割払いを検討することが必要になることもある。もっとも、六ヵ月から一年程度であれば、過払金返還まで業者に対する返済計画案の提示を遅らせることもやむを得ないと思われるので(本来任意に返還すべき過払金を返還しない業者がいるために返済計画案が提示できないのであり、それは業者全体の問題であるといえるし、先に残額のある業者に対する返済計画案を提示するのは、債務者にとって負担が大きいからである)、できる限り過払金返還を考慮に入れた残額での返済計画案を立てるのがよい。

こうして債務残額が、債務者の収支や財産状況によって判断した月々の支払可能額の範囲内である場合には、分割払いの任意整理を行うことを決定する。月々の支払額が支払可能額より多くなる場合には、支払期間を四年あるいは五年に延ばすことも考えるが、それだけ示談は成立しにくくなり、遂行可能性も低くなるので、個人再生手続きないし自己破産申立ても検討する。一括払いの場合には、単純に、予想した債務額を確実に準備することができるか否かを債務者ないし資金提供者に十分に確認する。こうして任意整理が実行可能と判断すると、分割払い、一括払いそれぞれに応じた内容の示談案を債権者に示していくことになるのである。

任意整理の受任と業者への通知

(1)債務負担・多重債務に至る事情の聴き取り
任意整理は、消費者については生活再建のため、自営業者については経営再建のために行うものであり、特に分割払いの示談を行う場合には、今後数年間にわたる分割払いが確実に実行されるようにしなければならない。しかし、多重債務に陥る事情の中には、無駄や浪費、計画性の不足、収支計算自体の不備などの事情が存する場合も多い。これらの事実に目を向けないまま任意整理を行っても、示談成立後間もなく支払困難・不能の事態が発生してしまうことになる。

そこで、法律家が任意整理を受任するに当たっては、できるだけ丁寧に多重債務に至る原因を聴取し、債務者との間で、多重債務の原因となった事項をどのようにして是正すべきかについて話し合うことが不可欠である。これが任意整理におけるカウンセリングの中心テーマである。そして債務者に対して、多重債務に陥った原因を改善し、前向きに生活再建・経営再建に取り組んでいく意欲をもつように導くのである。

(2)債務の内容の聴き取り
債務の内容の聴き取りに当たっては、すべての債務について任意整理を委任するか否かはさておき、ともかくすべての債務を書き出してもらうことが不可欠である。債務者は、商品を返還したくないクレジット債務、保証人が付いている債務、個人に対する債務などについて、弁護士には申告しないまま支払を継続しようと考えている場合が多いが、これらの支払を弁護士が把握していなければ、債務者の支払能力について判断を誤り、示談成立後間もなく支払困難・不能の事態を招く結果となる。

債務の内容を聴き取るに当たっては、当初の取引がいつ頃であるか、現在の債務額、月々の支払額、取引の中断の有無・期間、借入額増額の時期・金額、保証・担保の有無、契約書・領収証の保管状況等を聴き取っていく。依頼者本人に一覧表に記入させるだけでは、特に「当初の取引の時期」の意味などについて正確に理解しないまま記入されてしまい、返済計画案作成に当たり判断を誤ることになる。業者によっては、消費者に対しても一〇〇万円、二〇〇万円という多額の増額融資を行っている場合もあるので、いつ頃切替で一〇〇万円、二〇〇万円という金額になったのかを確認しておく必要がある。さらに取引の中断の有無・期間も確認し、過払金充当の可否も検討しておくのがよいであろう。

任意整理事件処理におけるモラル

取引履歴の開示義務やみなし弁済否定の判例が最高裁で続き、過払金返還請求が比較的容易になったことから、過払金返還の巨大市場に目を付けた一部の法律事務所や司法書士事務所がテレビや電車の広告などを通じて大量に多重債務者を集め、過払金請求だけをつまみ食いしたり、杜撰な処理をしたり、多額の報酬を請求して過払金をほとんど返還しないなどとして、トラブルになるケースが増えてきた。多数の事件を効率的に処理するためには、コンピューターの活用と優秀な事務職員の養成が不可欠である。

コンピューターは、債権者名簿の作成、債権者への通知発送のラベル作成、事件管理、金銭管理、利息計算、送金などあらゆる場面で活用できる。事務職員は熟練すれば、債務者の立ち直りのための生活指導などの役割も期待できる。ただし、依頼者からの受任や方針の決定、業者との最終交渉など、依頼者との信頼関係の確立や重要な決定に関わる部分を事務職員に行わせることは、事務職員の非弁問題を生じることになるので注意しなければならない。そこで、日弁連では二〇〇九(平成二一)年七月に「債務整理事件処理に関する指針」を作成した。その主な内容を列挙する。

①債務整理事件の受任に際しては、原則として弁護士が債務者と直接面談を行って事情を聴き取り、事件処理の見通し等を説明するものとする。

②債務整理事件の受任に際しては、債務者の意向を十分に考慮し、意向に沿う処理が困難な場合には、理解を得られるよう丁寧に説明を行うものとする。

③過払金返還請求事件の受任に際しては、他の債務の存否も正確に聴取し、合理的理由なく、過払金返還請求事件のみを受任する等の処理を行わない。

④選択した手続きおよび処理方法等に関して予測される重大な不利益について十分説明すること。

⑤手続きに関する報告を適宜行い、特に過払金の返還を受けた場合は、債務者に速やかに報告して、清算方法を協議するものとする。

上記の指針は、現時点では、従わなければ直ちに懲戒の対象となるという意味での強制力はないが、場合によっては顧客からの損害賠償請求の根拠とされる可能性はある。多重債務者の生活再建・経営再建を真剣に考えて任意整理手続きに取り組んでいる法律家にとっては、言うまでもない当然の内容である。

任意整理の費用

任意整理の手続き費用については、一社について二万円から五万円程度の金額を設定する法律家が多い。一社二万円の基準をとる場合にも、一社だけのときは五万円にするなど、最低基準を設ける者もある。また、債権者が多数に上る場合でも、五〇万円程度を上限とする法律家が多い。各地の弁護士会では、法律相談センターを通して受任した場合には、着手金を原則として一社二万円から三万円と定めている例が多い。多重債務者は長期にわたる高金利の返済のために経済的に疲弊しており、着手金を十分に準備することができない者が多いことから、早期の立ち直りを図るために弁護士委任の負担をできるだけ軽くしようとする配慮による。

着手金の分割払いについては、任意整理手続きが生活再建・経営再建のための手続きである以上、業者に対する返済計画が困難にならない程度の金額での分割払いを認めるのが妥当である。日本司法支援センター(法テラス)においては、法律扶助資力基準として、手取月収額が単身者では一八万二千円以下、二人家族では二五万一千円以下、三人家族では二七万二千円以下とされ、代理援助立替基準は、債権者数一社から五社の場合、実費二万五千円、着手金一〇万五千円、六社から一〇社の場合、実費二万五千円、着手金一四万七千円、一一社から二〇社の場合、実費三万円、着手金一六万八千円、二一社以上の場合、実費三万五千円、着手金一八万九千円とされている。報酬については経済的利益に対応して一定の割合を定める法律家も多いが、分割払いの場合には特に報酬を定めない法律家も多い。

日本司法支援センターの代理援助立替基準では、報酬の定めは存しない。任意整理は、一件で数社から十数社の債権者があるのが普通であり、煩雑な事務処理と多数の債権者との交渉が必要となるため、事件をいかに効率的に処理するかが課題となる。多数の事件を並行的に処理している場合には、事件の管理を確実に行うことが求められる。多重債務事件の激増により、弁護士数の少ない地方などでは、年間数十件の任意整理事件を受任せざるを得ない場合も多いから、事件の滞留が起きないように常に心がける必要がある。受任通知発送日、取引履歴開示日、示談案提示日などを一覧性のある事件進行表に管理してチェックしていくのがよいだろう。

商工ローン・信販・銀行との任意整理

(1)商工ローン業者との任意整理
商工ローン業者の中には、手形取引の形態をとっている業者や、みなし弁済の主張に固執する業者が多い。また、多数の連帯保証人が付いていたり、重要な資産を担保にとられているケースも多い。商工ローン業者との間での個別の対抗方法はあとで詳細に述べるが、多数の債権者の中に商工ローン業者が何社か含まれている場合の任意整理の処理方法には特別な配慮が必要である。

原則としては、商工ローン業者との間でも一歩も引くことなく、交渉が決裂すれば訴訟等で徹底して抗争することを辞さない姿勢が必要であるが、全体の返済源資に余裕がある場合、商工ローンの保証人等が一括支払に協力する場合、または早期解決によって生活再建や経営再建が促進される事情がある場合等は、商工ローン業者を除外して一般の貸金業者との関係でだけ任意整理を受任することもやむを得ない。ただし、商工ローン業者に対する支払によって一般の業者に対する返済計画の完遂に支障を来すようなことがあってはならないし、商工ローン業者にいったん支払うような場合でも、支払後適時に受任して過払金返還請求をなすなどの対応をするべきである。

(2)信販会社との任意整理
信販会社については、貸金に関しては貸金業者とまったく変わるところはないが、クレジット契約については、任意整理手続きに含めると所有権留保特約に基づき商品の返還を求められることになるので、自動車など通勤や営業に必要な商品のクレジット契約の場合、任意整理から除外せざるを得ない場合がある。自営業者の場合の機械器具など営業に必要な商品のクレジットも同様である。クレジット契約について任意整理に含める場合には、まず引き上げられた商品について適正な時価による評価を求めてこれを債務に充当させる。

その上で、契約当初からの取引履歴に基づき、利息制限法による引き直し計算を行って残元金を算出し、他の債権と同列に返済計画を立てる。クレジット契約については、利息制限法の適用を否定する裁判例があるが(名古屋地判昭六〇・二・八判夕五五四号二八一頁、東京地判平四・四・九金法一三五一号三七頁など)、任意整理案は返済困難・不能の場合の集団的な再建計画案であり、債権者の公平が重要な要素であること、多重債務者の生活再建・経営再建のためにはできるだけ負担を軽くすべきことなどから、利息制限法に基づく計算が正当化されるのである。

(3)銀行との任意整理
銀行については、もともと利息制限法の範囲内での貸金であるため、利息制限法を武器とした交渉はできないし、金融庁の検査も厳しく容易に長期分割にも応じてもらえないことから、任意整理手続きから除外する場合も多い。保証会社が付いている場合には、支払停止により保証会社が代位弁済した後に保証会社と分割交渉をすることで示談成立を目指す方が得策である。

(4)個人との任意整理
個人債権者を含む場合、その個人が債務者とどのような関係の者であるかによって、対応は区々であるが、個人の場合でも利息制限法を超過した貸付けをしている場合には、利息制限法引き直し計算をすることになるから、この点を個人債権者によく説明して理解を求める必要がある。

任意整理の処理基準

任意整理の処理基準は、長年月の先達である法律家の努力の積み重ねにより確立された実務の到達点を安易な妥協によって後退させてはならないという観点から、弁護士会など公的な立場において基準を確認することにより、一部の強硬な債権者に対しても理解を得られやすくする目的で作成されるようになったものである。最近では、この処理基準に従わないずさんな任意整理を行うことは、弁護士の誠実義務に違反するものであるとする判例も出されており(東京地決平一一・三・一〇消費者法ニュース四○号九一頁など)、任意整理を扱う弁護士には、この処理基準に則って手続きを行う義務が存すると認識されるようになった。

(1)弁護士会における基準
東京三弁護士会がクレサラ相談の統一窓口を設けるに当たって定めたのが、一九九六(平成八)年七月の「クレジット・サラ金処理の東京三弁護士会統一基準」であった。これが二〇〇〇(平成一二)年四月に改訂され、左記のような内容となっている。

①当初の取引よりすべての取引経過の開示を求めること。
②利息制限法の利率によって元本充当計算を行い債権額を確定すること。確定時は債務者の最終取引日を基準にする。
③和解案の提示に当たっては、それまでの遅延損害金、ならびに将来の利息は付けないこと。
④クレジット会社の立替代金債権額の確定に当たっては、手数料を差し引いた商品代金額を元本として貸金債務と同様の引き直し計算を行った場合の残元本を上限とすること。
⑤同一系列の保証会社の求償債権は、本来の貸金債権額まで減額すること。
⑥非弁提携弁護士による和解について利息制限法違反をチェックすること。
同様の基準(特に①から③の基準)は、全国の弁護士会においても、法律相談セッターにおける受任事件処理基準等の形で制定されるようになっており、全国的に普及している。

(2)日弁連における統一基準の採択
日弁連消費者問題対策委員会と公設事務所・法律相談センター委員会の共催で毎年開かれている「多重債務者救済事業拡大に関する協議会」で二〇〇〇(平成一二)年六月三日に左記の基準が採択された。
①取引経過の開示
取引開始時点からのすべての取引経過の開示を求めること。
②残元本の確定
利息制限法所定の制限利率によって元本充当計算を行い、最終取引日における元本を確定すること。
③残元本のみを対象とする弁済案の提示
弁済案の提示に当たっては、それまでの遅延損害金や将来利息をつけないこと。
全国の弁護士会で確認されている基準が日弁連の協議会の場で改めて確認されたことの意味は大きい。

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