記事一覧

任意整理事件処理におけるモラル

取引履歴の開示義務やみなし弁済否定の判例が最高裁で続き、過払金返還請求が比較的容易になったことから、過払金返還の巨大市場に目を付けた一部の法律事務所や司法書士事務所がテレビや電車の広告などを通じて大量に多重債務者を集め、過払金請求だけをつまみ食いしたり、杜撰な処理をしたり、多額の報酬を請求して過払金をほとんど返還しないなどとして、トラブルになるケースが増えてきた。多数の事件を効率的に処理するためには、コンピューターの活用と優秀な事務職員の養成が不可欠である。

コンピューターは、債権者名簿の作成、債権者への通知発送のラベル作成、事件管理、金銭管理、利息計算、送金などあらゆる場面で活用できる。事務職員は熟練すれば、債務者の立ち直りのための生活指導などの役割も期待できる。ただし、依頼者からの受任や方針の決定、業者との最終交渉など、依頼者との信頼関係の確立や重要な決定に関わる部分を事務職員に行わせることは、事務職員の非弁問題を生じることになるので注意しなければならない。そこで、日弁連では二〇〇九(平成二一)年七月に「債務整理事件処理に関する指針」を作成した。その主な内容を列挙する。

①債務整理事件の受任に際しては、原則として弁護士が債務者と直接面談を行って事情を聴き取り、事件処理の見通し等を説明するものとする。

②債務整理事件の受任に際しては、債務者の意向を十分に考慮し、意向に沿う処理が困難な場合には、理解を得られるよう丁寧に説明を行うものとする。

③過払金返還請求事件の受任に際しては、他の債務の存否も正確に聴取し、合理的理由なく、過払金返還請求事件のみを受任する等の処理を行わない。

④選択した手続きおよび処理方法等に関して予測される重大な不利益について十分説明すること。

⑤手続きに関する報告を適宜行い、特に過払金の返還を受けた場合は、債務者に速やかに報告して、清算方法を協議するものとする。

上記の指針は、現時点では、従わなければ直ちに懲戒の対象となるという意味での強制力はないが、場合によっては顧客からの損害賠償請求の根拠とされる可能性はある。多重債務者の生活再建・経営再建を真剣に考えて任意整理手続きに取り組んでいる法律家にとっては、言うまでもない当然の内容である。