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貧困・格差問題の現状

(1)生活保護受給世帯の増加
生活保護受給世帯は、一九九五年度は約六〇万二千世帯であったが、二〇〇八年度の一ヵ月平均は、一一四万八七六六世帯に増加している。生活保護制度に関しては、制度を利用し得る人のうち現に制度を利用できている人が占める割合を示す「捕捉率」は、ドイツでは八七%、イギリスでは八五%を超えているということであるが、日本の捕捉率は約一六~二〇%と推計されているということである。仮に日本の「捕捉率」を二〇%と見積もったとしても、現に生活保護を受給している世帯数から計算すると、およそ四〇〇万世帯が生活保護を受給する権利があるのに漏れ落ちているということになる。さらに、「水際作戦」と呼ばれる行政の窓口規制により、受けられるべき生活保護が受けられない事態が発生している。このため、生活保護を申請したが認められなかった人の餓死事件が多発している。このほか、生活保護制度に関しては、老齢加算に続いて母子加算が廃止・削減され、さらに生活保護基準の切下げも検討されている状況にある。

(2)働く貧困層(ワーキングプア)・非正規雇用労働者の増加 
総務省の労働力調査によると、二〇〇七年一~三月平均でパート・アルバイト・派遣労働者などの非正規労働者は過去最多の二七二六万人に達し、労働者全体に占める割合も三三・七%と過去最高となっている。一〇年前より非正規労働者は五七〇万人増え、逆に正規労働者は四二〇万人減少している。非正規労働者の平均年収は、正規労働者の約五割にとどまっており、二〇〇六年の労働力調査では、年収二〇〇万円未満の非正規労働者は一二六〇万人に上り、非正規労働者全体の七七%を占めているということである。

(3)貧困問題を解決するための当面の課題
貧困は、人間の尊厳を奪い去り、ときには命さえも奪い去る。貧困の広がりは、わが国社会そのものを分裂させ、崩壊させる危険性がある。貧困が広がる社会は、誰もが人間らしく安心してくらせる社会とはいえない。貧困問題を解決するためには、当面生活保護をはじめとするセーフティネットの強化と働く貧困層(ワーキングプア)対策の強化とが求められている。

(4)セーフティネットの強化
生活保護制度の運用を改善し、生活保護制度をもっと利用しやすい制度にしていく必要がある。そのためには、水際作戦と呼ばれる行政の窓口規制をやめさせ、老齢加算や母子加算の削減・廃止を撤回させ、生活保護基準の引下げを阻止しなければならない。また、生活保護制度に関する広報、情報提供などを行って周知徹底を図る必要がある。現状では、生活保護制度よりサラ金やヤミ金融の方が身近な存在となっているからである。

(4)低所得者層に対するセーフティネット貸付けの充実
次に、低所得者層に対する無利息または低金利の公的融資制度を充実させる必要がある。多重債務者増加の最大の要因は、高金利の貸付けにあり、低所得者が利用しやすい無利息または低金利の融資制度が存在すれば、高金利の貸付けの罠に陥ることもない。このような観点から、社会福祉協議会による生活福祉資金貸付け、自治体による母子寡婦福祉貸付金制度、労働金庫による自治体提携社会福祉資金貸付制度などを充実する必要がある。また、このような公的融資制度についても広報・情報提供などを行って周知徹底を図る必要がある。

貧困・格差問題の解決

(1)多重債務問題の背景には貧困問題がある
画期的な新貸金業法の成完、内閣における多頃債務者対策本部の設置、多重債務問題改善プログラムの決定などにより、多重債務対策は人きく前進したといえる。しかしながら、多重債務問題の背景には、貧困問題がある。現在、わが国でサラ金を利用している人は一千万人を超えており、そのうち自分の収入では返済困難に陥っている多重債務者は二〇〇万人を超えている。また、二〇〇八年の経済・生活苦の自殺者は七四〇四人に達している。一日二〇人近くが経済・生活苦で自殺しているのである。

日弁連消費者問題対策委員会が行った「二〇〇五年破産事件記録調査」によると、「破産原因」は、「生活苦・低所得」、「病気~医療費」、「失業・転職」、「給料の減少」など、貧困を原因とする破産が約五割を占めている。また、「破産申立者の月収分布」を見ると、月収二〇万円未満の低所得者層が約八割を占めている。また、近畿弁護土会連合会が二〇〇六年に自己破産した二六六人について調査したところ、二六六人中一一〇人(四一%)が生活保護水準以下の収入で生活していたことが明らかになっている。自己破産申立てをして免責許可決定を受ければ、いったんは多重債務から解放されるが、破産しても相変わらず生活が苦しければ、再び高金利のサラ金やヤミ金融に手を出さざるを得ない。このため、多重債務問題の根本的な解決のためにも、貧困問題の解決が必要となる。

(2)貧困の拡大
わが国社会で貧困や格差が広がっている。貧困や格差の広がりは、高金利のクレジット・サラ金の利用者を拡大させ、多重債務者を生み出す大きな要因となっている。

(3) 高い貧困率
経済協力開発機構(OECD)が二〇〇六年七月二〇目に発表した「対日経済審査報告書」によれば、その国の平均的な世帯所得の半分以下でしかない人の比率を示す「相対的貧困率」は、OECD加盟国のうち適切な統計が得られて相対的貧困率が判明した一七か国中、日本は米国に次いで二番目に高くなっている。

(4)貯蓄ゼロ世帯の増加
金融広報中央委員会の「家計の金融資産に関する世論調査」によれば、一切の貯蓄をもっていない世帯率は、一九八〇年代には五%前後で推移していたが、一九九〇年代には一〇%前後となり、二〇〇六年には二二・九%となっている。この結果、現在では、約三千万人が貯蓄ゼロで生活していることになる。貯蓄ゼロ世帯では、家族の誰かが病気をしたり失業したりすると、たちまちのうちに生活
が困窮することになる。

(5)国民健康保険料の滞納世帯の増加
国民健康保険料を滞納している世帯は、二〇〇〇年六月から二〇〇四年六月までの四年間に三七〇万世帯から四六一万世帯に増加している。厚生労働省が公表した資料によると、二〇〇八年六月現在、国民健康保険料を滞納している世帯は四五三万四五五世帯(国保加入世帯の二〇・九%)に上り、滞納を理由に保険証を取り上げられ、資格証明書を発行された世帯が三三万八八五〇万世帯に上ることが明らかになっている。このため、病気になっても診療を受けられない「医療難民」が増加している。

具体的改善プログラムとは

(1)金融経済教育の強化
「多重債務者発生予防のための金融経済教育の強化」という課題に関しては、改善プログラムでは、現在の多重債務者救済のための相談体制の整備等とともに、対策の車の両輪となるものと位置づけ、①社会に出る前に、高校生までの段階で、すべての生徒が、具体的な事例を用いて、借金をした場合の金利や返済額、上限金利制度、多重債務状態からの救済策(債務整理などの制度や相談窓口の存在)等の知識を得られるよう取り組む、②当面の対応策として、ホームルーム等において借金問題を取り上げるよう促すことを検討する、③さらに、高校の家庭科の学習指導要領において、多重債務問題について取り扱うことを具体的に検討する(あわせて、学習指導要領の見直しの内容を踏まえた、教員研修等を行う。また、教科書において、見直しも踏まえた記述がなされることを期待する)、④成人への消費者教育については、関係団体・自治体等による主体的な取組みを促す、などの対策が打ち出されている。しかしながら、この課題に関する取組みもまだまだ不十分であるのが実情である。

(2)ヤミ金融の取締り強化
「ヤミ金の撲滅に向けた取締りの強化」という課題に関しては、改善プログラムでは、今回の改正貸金業法の規制強化を実効的なものとするためには、ヤミ金撲滅が不可欠として、①警察や監督当局は、ヤミ金の撲滅に向けて取締りを徹底するため、警察においては、当分の間、集中取締本部を維持し摘発を強化し、監督当局は、処分徹底とともに、積極的に警察に情報提供する、②被害相談を受けた監督当局・警察は、電話による警告等を積極的に行い、警察は、携帯電話の不正利用停止制度の積極的活用を検討する、③犯罪収益移転防止法において、郵便物受取り・電話受付サービス業者に対して、本人確認、疑わしい取引の届出等が義務付けられたので、ヤミ金対策に積極的に活用する、④現場の警察官が適切な対応ができるよう、平易で実践的なマニュアルを現場の警察官に配布・周知する、などの対策が打ち出されている。

この間、警察によるヤミ金融摘発件数は増加してきており、また、警察庁は「ヤミ金融事犯相談対応マニュアル」を作成し、全国の都道府県警察に配布しているが、ヤミ金融被害者が警察に相談にいくと、警告電話をかけないばかりか、いまだに「借りたものは返すべきだ」といったり、「民事不介入」を理由に適切な対応をしない警察官が多いのが実情である。全国ヤミ金融対策会議が、二〇〇八年五月末に実施した「全国一斉ヤミ金融一一〇番」の集計結果によると、警察官の対応状況は、二七%が「良かった」、七三%が「悪かった」と回答している。ヤミ金融に関しては、ヤミ金融の元金も返済不要とする最高裁判決が出ている。警察官は、この最高裁判決も踏まえてヤミ金融の被害者に対して適切な対応をするとともに、ヤミ金融撲滅に向けた取締りをさらに強化すべきである。

多重債務問題改善プログラムの着実な実施

二〇〇七年四月二〇日、政府の多重債務者対策本部が決定した「多重債務問題改善プログラム」では、①丁寧に事情を聞いてアドバイスを行う相談窓口の整備・強化、②借りられなくなった人に対する顔の見えるセーフティネット貸付けの提供、③多重債務者発生予防のための金融経済教育の強化、④ヤミ金融の撲滅に向けた取締りの強化、が四つの大きな柱となっている。改善プログラムの四つの柱を着実に実施していくことは、新貸金業法の完全実施に向けた環境を整備していくことにもつながっている。

(1)相談窓口の整備・強化
このうち、「丁寧に事情を聞いてアドバイスを行う相談窓口の整備・強化」という課題に関しては、特に自治体における相談窓口の整備・強化が重視されており、二〇〇七年末までに、全国四七都道府県のすべてにおいて都道府県の関係部署に、警察、弁護士会、司法書士会、クレサラ被害者の会などが参加した「多重債務者対策協議会」が設置されている。都道府県における多重債務者対策協議会の設置を受けて、二〇〇七年一二月一〇日から一二月一六日にかけては、政府の多重債務者対策本部、日弁連、日司連が共催して、「全国一斉多重債務者相談ウイーク」が実施されている。この相談ウイークでは、全国各地の都道府県市町村四五〇か所において、弁護士九五〇人、司法書士五〇〇人が参加した多重債務問題の無料相談会が行われ、六千件を超える多重債務者の相談を受け付けている。また、二〇〇八年九月一日から一二月三一日にかけては、「多重債務者相談強化キャンペーン」が実施されている。このように、地方自治体における相談窓口の整備・強化は、少しずつ前進してきているといえる。

(2)セーフティネットの強化
「借りられなくなった人に対する顔の見えるセーフティネット貸付けの提供」という課題に関しては、改善プログラムは以下のようになっている。

①高リスク者の受け皿となる消費者向けのセーフティネット貸付けは、各地域において「顔の見える融資」(丁寧な事情聴取、具体的な解決方法の相談、事後のモニタリングを前提として、返済能力が見込まれ、問題の解決に資する場合に限って低利の貸付け)を行う、いわば「日本版グラミン銀行」モデルを広げていく(主体は各地域の非営利機関(生協、NPO、中間法人等)や民間金融機関(労金、信金、信組等)。公的な信用付与として自治体が、非営利機関に融資する金融機関に預託金を預ける岩手信用生協の例も参考になる)

②既存の消費者向けセーフティネット貸付け(社会福祉協議会による生活福祉資金貸付け等)についても、事前相談や事後モニタリングを充実させること等(債務整理等に関する研修、弁護士会等との連携強化等)により、受け皿としての活用を促進する

③社会保障の最後のセーフティネットである生活保護については、受けられるべき生活保護が受けられず高金利の貸付けがそれを代行する事態が発生しないよう適正な運用を図る

④事業者向けの政府系金融機関によるセーフティネット貸付け等については、きめ細かく融資申込者の状況を把握し、債務整理等のため、必要に応じて弁護士等への紹介・誘導を図り、早期の事業再生や再チャレンジを支援するため、全国約二八〇ヵ所に再チャレンジ相談窓口の設置を行うとともに、中小企業金融公庫・国民生活金融公庫等により、再生プロセスにある事業者やいったん失敗した事業者に対する融資制度が導入されるのでその積極的な活用を促す、などの対策が打ち出されている。しなしながら、この課題に関して、生協や労働金庫など一部の取組みを除き、まだまだ不十分であるのが実情である。高金利を規制した場合、それに代わるセーフティネット貸付けの拡充は必ず必要となってくるものであるので、早急な取組みが期待される。

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